2016年(平成28年)8月5日(金)、東京都千代田区コープビルにて、セミナー・研修会を開催しました。
講演Ⅰ「養豚場に於けるHACCP提案と実践事例」~HACCP実践事例を通した効果的運用~
講演者:共立製薬株式会社 PA営業本部 PA札幌営業所 HACCP担当課長 藤巻哲也氏
講演Ⅱ「生産農場におけるHACCP構築の課題と要点」
講演者:西村獣医科クリニック 代表 農場HACCP認証主任審査員 獣医学博士 獣医師 西村雅明氏
講演者
藤巻哲也氏講演 主要資料
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西村雅明氏講演 主要資料
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HACCPはシンプルな手法である
HACCPは、危害要因分析(HA)により得られた結果を基に必須管理点(CCP)を決定した上で集中管理する手法である。非常にシンプルである。しかし、HACCP参考書ではHACCPを適用するにあたっては、一般的衛生管理(前提条件プログラム)が確立され、十分に運用されていなければならないとされている。この段階から、指導員はHACCP参考書を手にして完璧性を求め、複雑化、そして文書化重視への道に落ち込んでゆく。指導員は絶えずシステムを単純化させる姿勢で臨まなければならない。
家畜伝染病予防法の飼養衛生管理基準をクリアーし、一般的衛生管理を確立し、HACCP構築に臨むというような重層化した積み上げ方式の捉え方では、HACCPシステムは複雑になるだけで、現場では活用されない。HACCPは、生産に関わる原材料、生産環境、施設、家畜・畜産物の動線、作業手順などのすべてについて危害要因分析を実施し、必須管理点(CCP)を決めて、管理を集中させることにある(図-2)。畜産農場においては、危害要因分析の結果、必須管理点が無い場合もありうる5)。作業の流れを主軸に作業手順書等の中に法規制、一般的衛生管理、生産管理などの事項を集約していくことがシステムの簡素化につながる。欠如が見つかったら改善すれば良いことである。HACCP手法の特徴は、衛生水準の永続的改善システムであるからである。
HACCPの考え方を定着させることが生産性を高める
農場で最も困っている問題は、疾病による生産性の低下である。ある細菌性感染症が発生したとすると、抗菌剤の投与により治療を施し、感染の拡大を防止するため同居家畜にも予防的に抗菌剤を投与する。この事例では、畜産物(食肉)の安全性を考えた場合、抗菌剤や注射針が食肉・乳・卵等の食品に残留していないことを保証しなくてはならない。そのために、抗菌剤投与記録や注射針管理記録により、休薬期間の遵守、残留針が無いことを証明できる管理システムを構築しなければならない。溯って、抗菌剤による治療は、対処療法であり、感染を未然に防ぐことが出来れば、治療の必要性がなくなる。すなわち、抗菌剤や注射針の残留という危害要因を大幅に減少させることになる。HACCP手法に基づき、感染を防ぐための予防手段を具体的に策定し、マニュアル化し、実施し、効果確認を行うことがより重要となる。
獣医師は、疾病の治療、感染症予防、飼養管理、畜舎管理等に関する幅広い知識と技術を駆使して、生産性の向上と食品の安全性を高めるための指導を行っている。農場HACCP検討会等での獣医師と農場従業員との相互の会話が、従業員の教育に大きく貢献することになる。何故やらなければならないのか、何故やらなくてもよいのかが、おのずと理解されるようになる。納得した上で行う作業と言われたから行う作業とでは、その作業の効果に雲泥の差が生じるのは明らかである。
畜産分野がHACCP手法で最も高い経済効果をもたらす
HACCP手法の特徴は、危害要因分析、予防策の策定、結果に対する評価、そして再吟味し改善・更新へと連続的に進める手法であり、衛生水準の継続的改善システムともいえる。
食品製造業、流通業などの食品事業者にとって主な関心事は、「どのようにしたら食品事故を減らすことができるか」である。将来起きる可能性のあるリコールなどの経済的損害を回避するための予防措置が関心事である。一方、畜産分野でのHACCP手法は、家畜の疾病を引き起こす要因を特定し、排除または管理するための明快な方法を構築するものであり、家畜の健康維持を確保するために役立つ手法である。当然、農場により家畜の疾病の種類と疾病を引き起こす要因が異なるため、農場ごとにHACCPが構築されなければならない。畜産分野においては、衛生水準の継続的改善システムともいえるHACCP手法の導入が、感染症や病気による事故を減少させることが可能であり、経済的効果が得やすい事業分野である。